サイキからの手紙

面倒な奴にはとりあえず殴りかかる。自分とは違う考え方だから問答無用で排除する。

それが君たちの正義なの?

闇や影をなくしていけば明るい世界になると思ってるんなら、それは私と同じじゃないか?

なのに何故、私と戦う。

何故、この不完全な宇宙を守ろうとする?

知恵を得たことで君たちが成し遂げたのは単により多くのものを破壊できるようになった、ということだけじゃないの? より多くの命を奪えるようになった。より遠くまで資源を奪いに行けるようになった。
だから素晴らしい。君たちはそう言ってる。
もちろん、いくつもの輝かしい成果はあるだろう。病を治す薬が生まれた、とかね。
けれどその薬は誰にでも与えてもらえるものではないよね? 対価を払え、と君たちは言う。払えなければ薬はあげない、と言う。
病を治せる力がありながら、せっかく助けた命を戦場に送り出す。
自由意志が愛を生むのだと君たちは言う。

愛は素晴らしい奇跡だと。
しかし君たちの世界はその愛すらも取り引きに使う。愛する者のために戦え、と言い出す。
そして愛は奪い合うものになる。愛を失えば悲しみと憎しみが生まれる。愛ゆえに殺し合いがはじまる。


君たちの守ろうとしている宇宙はそういう宇宙だ。
根本から変えたくはないか?

誰もが争うことなく暮らせる世界に。

誰かが富を独占したりしない世界に。愛だけに満たされ、誰も愛に飢えることのない世界に。
私はそういう世界を与えてあげられる。
戦神は民のためなら我が身はどうなってもいいと言ってくれていた。美しい自己犠牲だよね?

君たちの大好きなヒロイズムを彼女は体現してくれると言ってる。
なのに。

何故彼女を止める?

彼女を救うことが君たちの正義なのはわかる。けれど、彼女を救うことはそのままこの争いと悲劇の絶えない宇宙を温存させるということだ。
目の前の悲劇を止めようとして、君たちはより多くの悲劇から目をそらそうとしてる。
私にはそれができない。
誰ひとり犠牲の出ない平和を作りたい。誰も泣くことのない、誰も飢えることのない、誰も争わない世界を作らせてくれ。
闇も影もない、ただ光のみの世界だ。
君たちが作ろうとしている世界とそんなに違いはないはずだ。
こう言っても君たちは頷いてはくれないだろうね。
自由意志を奪われたら、それは生きてることにはならないと言いたいのだろうね。
しかし君たちだって知ってるはずだ。自由意志を持たない集団のほうが素晴らしい成果をあげられることを。だから君たちだって規律を作りモラルを作り、命令系統を作り、違反者に罰を与える。
大いなる目的を実現するために自由意志はいらない。君たち自身の世界がそう言っている。
さあ、教えてくれないか。
何故、私の邪魔をする?
何故、私の計画を潰そうとする?
誰かが独裁的に全てを支配する世界はデストピアだと言いたいのだろうね。
もちろん、その独裁者の目的が私欲を満たすだけのものだったなら、そして自由意志を押さえつけて人を無理矢理に従わせるのなら、確かにデストピアが生まれるのだろう。
だが私の目的は平和な世界だ。そして自由意志を押さえつけもしない。そもそも自由意志はないのだから、抑えつける必要もない。
その世界に変化はないかもしれない。成長もないかもしれない。永遠の停滞なのかもしれない。
だが、それのどこが悪い。平和な世界が永遠に続く。
少なくとも次の命の種が放出され、再び善悪を知る知恵を持つ生き物が現れるまでの一億年間、その世界が続く。

君たちは邪悪な者たちと戦うのだろう?
自分と考えの違う者は邪悪なのか?
私は邪悪か?

ああ、もう面倒くせえ!
そう言いたくなったきたろ?
自由意志を奪われたくないっていうのは理屈じゃない。感情的に受け入れられないんだと、そう言いたいのだろうね。
だとしたら知性など必要ないではないか。
君たちは理屈に対して理屈で答えることを面倒だと思ってる。
知性があるのに考えることを億劫がる。
簡単でわかりやすい敵対関係しか受け付けない。
それを私は「野蛮」だと言う。
感情的で感覚的であることが正義なら、知性はいらない。善悪を知る、ということが争いの火種にしかならないのなら、善悪など知らなくていい。
自分が正しいなら相手は悪だ、としか思えないなら知性などいらない。

君はウルトラマンだ。光の戦士だ。宇宙のバランスを保つものだ。
悲しみひとつもない世界を目指すものだ。
ならば私と同じだ。
私はたったひとつのウルトラの光で宇宙をあまねく照らそうとしてる。

なのに、何故だ。

教えてくれ。

何故、争いのない平和な世界の創造を邪魔するんだ、ウルトラマン
何故、愛に満ちた世界を作らせてくれないのだ。

 

【サイキという人物の設定として書いたものです】